【外傷外科医が解説】チェンソーマンの“身体を捧げる契約”――現実ならどこまで生存可能?

導入:チェンソーマンの「捧げ物」、現実なら何が起きる?

チェンソーマンといえば、独特な世界観とスピード感で人気の作品ですよね。
現在も連載が続く中で「この先どうなっていくんだ……」と毎回ざわつかされるのも、この漫画の魅力だと思います。

その中でも印象的なのが、悪魔との契約で身体の一部を捧げるシーン。
皮膚や爪、目――さらには臓器まで。作中では割とあっさり提示されますが、現実の医学で見ると、これ……かなり話が変わります。

では、もし「現実の人間」が同じことをするとしたら、どこまでが“比較的”生存可能で、どこからが即・詰みなのか。
外傷外科医として、止血目的に緊急で臓器を切除することもある立場から、ガチで考察してみます。


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1. まず大前提:「生きられる」=「安全」ではない

このテーマで一番誤解されやすいのがここです。

臓器は、命を保つ装置。
「なくても生存可能」な臓器・部位は確かにあります。ですがそれは、

  • 医療(止血・感染制御・集中治療・栄養管理)が入る
  • 状況(出血量・汚染・ショック)がコントロールされる
  • 長期フォロー(予防接種、生活指導、内服)ができる

という“現代医療の条件付き”で成立する話です。


2. この記事の「評価軸」:外傷外科医的に見る3点セット

「捧げても生きられるか」を、現実の救急の目で見るなら判断はだいたいこの3つです。

  1. 即死ライン(数分〜数十分で死ぬか)
     → 出血・窒息・心停止に直結するかどうか
  2. 短期で詰むライン(数日〜数週)
     → 感染・臓器不全・栄養破綻に移行するかどうか
  3. 長期の代償(生存はするが人生が変わる)
     → 糖尿病、腎機能低下、免疫低下、吸収障害など

この3つで見ると、作品の「捧げ物」も現実感が一気に出ます。


3. 結論:この臓器たちは“条件が整えば”生存可能

まずは結論をズバッと。

脾臓、胆嚢、腸管の一部、肺の一部、肝の一部、膵体尾部、腎臓(片側場合によっては両側)
条件が整えば「生存」は可能

ただし、「比較的安全に捧げられるか?」という問いに対しては、臓器ごとに答えが変わります。


4. 早見表:どこまで“成立”する?(生存可能性と代償)

※ここで言う“成立”は「現代医療が介入した場合に生存し得る」という意味です。

捧げるもの生存可能性代償の方向性外傷外科医コメント
胆嚢高い消化器症状が残ることがある(脂っこい物で下痢など)“命”には全く関与しない。胆嚢があることで胆嚢炎などになる事もあるので、むしろ契約のコスパがいいかも
脾臓高い免疫低下(重症感染のリスクが上がる)手術で摘出して助かることはある。ただし、脾臓がないと特定の菌に対して弱くなるという面も
腎臓(片側)高い長期で腎機能低下リスク、血圧など基本的には1つ残っていれば大丈夫。両側とっても最悪、透析導入で生存はできる
肺の一部中〜高運動耐容能低下(息切れ)切除しても問題ないのは全体の1/4くらいだと思われる。腎臓と違い半分なくなると結構厳しい
肝の一部中(条件次第)残る量次第で危険。肝機能によって、どのくらい切除できるかが決まる。実際の外傷では基本的には切除できない臓器として扱う
膵体尾部糖尿病・消化不良(吸収不良)が出やすい生存はできる。長期的に問題が起こることはある
腸管の一部幅が大きい短腸→栄養・水分で詰む可能性“切った直後は生きられるけど、残存腸管が少ないと栄養吸収に問題が

5. 各臓器の「現実の怖さ」をもう一段だけ噛み砕く

胆嚢:生存はほぼ問題ない

胆嚢は「なくても生きられる」代表格です。
ただし、術後に脂質で下痢しやすくなるなど、体の癖が変わる人はいます。
命ではなく“日常”に効くタイプの代償


脾臓:生きられるが、免疫の“保険”が減る

脾臓は外傷で破裂すると、止血のために摘出することがあります。
生存はできます。ですが重要なのは、ここから先が「感染に弱い身体」になること。
“普段なら耐える感染”が一気に危険化するという、静かなリスクが残ります。


腎臓(片側):生活はできる、でも将来の余裕が削れる

片腎でも生活は可能です。
ただし、腎臓は一度悪くなると戻りにくい臓器。
「片方しかない」は、将来的な病気や脱水、薬剤に対して耐久度が下がるという意味です。


肺の一部:日常はできるが、“息の上限”が下がる

肺は一部切除でも生存可能です。
ただし、階段・全力疾走・長時間の活動など、**息切れが“先に来る身体”**になる可能性があります。


肝の一部:再生する。でも“残り”が少ないと詰む

肝臓は再生能力があり、部分切除後に回復し得ます。
でも誤解されがちなのが、「だから何割切ってもOK」ではないこと。
残肝が少ない状態は、短期的に致命的になり得ます。

また、外傷による出血性ショックの状態では残った肝臓の断面から出血することもあり、初回手術で切除まで行うことは稀です。


膵体尾部:生存はするが、代償が「糖」と「消化」に来る

膵臓の体尾部を失うと、ホルモン(糖代謝)と消化酵素(吸収)がやられます。
つまり、命は助かっても

  • 糖尿病
  • 体重減少、下痢、脂肪便

みたいな形で、生活のルールが変わることがある。


腸管の一部:最初は生きてる、でも後から“栄養”で詰む

腸は「どれだけ残るか」が全てです。
少しなら普通に戻れます。
でも短くなるほど、栄養・水分の吸収が破綻し、生き方そのものが医療依存になることもある。
切った瞬間に死なないのに、後からジワジワ来る。


まとめ:生存可能な臓器はある。でも“安全に捧げる”は幻想

  • 脾臓、胆嚢、腸管の一部、肺の一部、肝の一部、膵体尾部、腎臓(片側)は、条件が整えば生存は可能
  • ただし「安全」ではない。代償は免疫・栄養・代謝・運動耐容能など、別の形で必ず来る。

次回予告

次は「じゃあ逆に、捧げたらほぼ詰む臓器はどれ?
心臓・大血管・脳・肝門部・膵頭十二指腸領域……など、“即死ライン”を外傷外科医視点で整理してみます。


最終更新日:2026/1/25

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