【医療者向け 解説】『HUNTER×HUNTER』の「首トン」
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
今回は椎骨動脈損傷(Vertebral Artery Injury)、いわゆる BCVI(Blunt Cerebrovascular Injury) に絞って簡潔に整理します。頚椎骨折や高エネルギー外傷に伴い、椎骨動脈が損傷することがあります [1][3][4]。稀な疾患と思うかもしれませんが、しっかり疑いを持って造影CTを撮影していると、そこまで珍しくない損傷という印象です。
何が一番大切か
最重要は脳梗塞の予防です。BCVIでは血栓形成と塞栓(thromboembolism)が主機序で、受傷後しばらく経ってから、損傷血管部に形成された血栓が飛ぶことや、血栓で閉塞していた血管が再開通する際に血栓が飛び、後方循環系の脳梗塞を起こし得ます [1][3][4]。
重症度評価(Denver/Biffl grading)
血管損傷の形態に基づくDenver分類で重症度を把握します。まず目の前の患者さんのGradeを決めることが重要です [1][2]。
私見:Grade IVは再開通リスク自体は高くないとされ、一律の予防的塞栓術は推奨されません。ただし実際に脳梗塞が起これば後方循環のダメージは致命的・高後遺障害となり得るため、症例ごとに議論の余地はあります [1][3]。再開通リスクは低いとの報告もありますが、画像を再検したら、再開通していることも多々ある印象です。
初期対応と治療の基本線
- 早期の抗血栓療法(抗凝固薬または抗血小板薬)を可能なら早期に開始します。目的は血栓形成と塞栓の抑制です [1][3]。
- 現実には頭部外傷や多発外傷の併存が多く、出血リスクとのバランスが必要です。開始時期・選択薬剤は個別判断になります [1][3]。
- 内科的治療が基本で、血管内治療(ステント・塞栓)は選択的に検討します(例:増大する仮性瘤、再発イベント、解剖学的に不利なフラップなど) [1][2][3]。
- 画像評価は施設プロトコールに沿ってCTAによるスクリーニングと経時評価を行います [1][3][4]。
参考文献
- EAST Practice Management Guideline. Evaluation and management of blunt cerebrovascular injury. J Trauma Acute Care Surg. 2020;88(6):875–887.
- Western Trauma Association. Critical decisions in trauma: screening for and treatment of blunt cerebrovascular injuries. J Trauma. 2009;67(6):1150–1153.
- Scandinavian Neurotrauma Committee. Best practice guidelines for blunt cerebrovascular injury. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2018;26:90.
- Shafafy R, Valsamis EM, Gangi A, et al. Blunt vertebral vascular injury in trauma patients: a review. EFORT Open Rev. 2017;2:147–153.
最終更新日:2025年10月13日