【外傷外科医が考察】「刺すなら首だよ…ま、ガードしたけど」──そのセリフ、本当に正しい?
導入:あのセリフ、本当に正しい?
『HUNTER×HUNTER』ヨークシン編。
単行本12巻・第113話(12巻149ページ付近)、ベーチタクルホテルの暗闇の中で、キルアがマチに手刀を入れにいくシーン。
そこでマチが言う。
「刺すなら首だよ… ま、ガードしたけど」
──うん。たしかに。
一般的にも「首=急所」は常識です。誰でも分かる“致命点”。
でも外傷の世界には、もう一つ、同じくらい明確な急所の地図があります。
それが Cardiac box(前胸部の“心臓・大血管損傷をまず疑う領域”)。
そしてこの場面、よく見るとキルアが狙っているのは、首とは別に普通に危険な場所でもある。
今回はこのセリフが「外傷として本当に正しいのか」を、外傷外科医の目で考察します。
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1. 症例検討:もし「暗闇で前胸部を狙った刺突」が来たら
まずは作中の状況を、外傷症例として翻訳します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受傷機転 | 近距離での刺突(手刀・ナイフ相当の貫通外傷を想定) |
| 狙い | 前胸部 |
| まず疑う致死病態(前胸部) | 心タンポナーデ、心筋損傷、大血管損傷、緊張性気胸、大量血胸 |
| 現場の結論 | 首も危険。だが“胸の真ん中”も同格に危険 |
ここで言いたいのは一つだけ。
「首が急所」なのは正しい。でも、それだけじゃない。
2. じゃあ「刺すなら首」は正しいのか?
2-1) 一応正しい:首はわかりやすい“即死ルート”が揃ってる
首は、致死的トラブルが“浅いところ”に密集しています。
- 気道:損傷や腫脹で突然閉塞
- 大血管:頸動脈・頸静脈の損傷
だから、マチの台詞は「常識として」かなり正しい。
2-2) ただし:「首=絶対の最適解」とは限らない
現実の外傷として考えると、首は
- 細い/動く
- 守られやすい
- 角度次第で当たり外れが大きい
という“難しさ”があります。
危険だけど、確実性はブレる。
3. 外傷の世界の急所地図:Cardiac box
ここで出てくるのが Cardiac box。
前胸部のある範囲(胸の真ん中の四角い領域)で、
ここに貫通外傷があったら「まず心臓・心嚢・大血管を疑え」という、外傷の合図です。
よく使われる体表上の定義(代表例)は次のようなものです:
- 上縁:胸骨上窩(sternal notch)あたり(または鎖骨上縁)
- 下縁:剣状突起(xiphoid process)あたり
- 左右:左右の鎖骨中線(midclavicular lines)
つまり、胸骨を中心に、両側の鎖骨中線に挟まれ、胸骨上窩〜剣状突起までの長方形(文献や教本で多少のバリエーションあり)を「cardiac box」と呼び、この範囲の穿通創は心タンポナーデや致死的出血を強く疑う、という臨床的な意味合いで使います。
要点はこれ:
- 外見の穴が小さくても重要臓器損傷の可能性がある。
- 現場では 刺創部が“cardiac box内=やばい”
まとめ:「刺すなら首」は正論。でも当たり前だけど“胸の真ん中”も急所
- 首は確かに急所(気道・大血管が浅い)
- ただし外傷の世界には Cardiac box という「ここなら心臓・大血管をまず疑う領域」がある
- そしてこのシーン、キルアが狙っている場所も、外傷的には普通に危険
- だから外傷外科医としての読後感はこうなる:
「首が急所なのは同意。でも胸の真ん中も同格だよ」
最終更新日:2026年2月24日