【外傷外科医が解説】フェルンの「肩穿通」:リュグナーの意趣返しは成立する?
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
導入:あのシーン、外傷外科医が真っ先に視るのは「高さ」と「方向」
『葬送のフリーレン』、皆さんはご覧になっていますか?
いわゆる「バトル漫画」としての熱さもありながら、全編に漂うあのどこか淡々とした、心地よい「緩い空気感」がたまらないですよね。何より、魔王を倒した「その後」の余生から物語が始まるという設定の妙。長い時間を生きるエルフの視点で描かれる、切なくも温かい後日譚には、私も一人のファンとして心を掴まれています。
ですが、ひとたび戦闘シーンが始まると、どうしても抑えられないのが「外傷外科医としての職業病」です。
特にアウラ編、フェルンがリュグナーから受けたあの一撃。物語的には熱いシーンですが、医学的に見ると「おいおい、そこはマズい!」と叫びたくなるような超危険部位だったんです。
「そこ、解剖学的に『当たり所が悪ければ即死』の超危険地帯じゃないか?」
という懸念です。
しかし、描写を詳細に観察すると、ある可能性が浮かび上がります。
「もし、あの高さで水平に抜けたのだとしたら……これ、致命傷を免れる絶妙なラインなのでは?」
今回は、フェルンの肩穿通の怪我をガチ考察します。
葬送のフリーレンを改めて読みたくなった方は是非こちらから
1. 症例検討:もし「左鎖骨下穿通」の患者が搬送されてきたら
まずは作中の状況を、救命救急センターに搬送されてきた「外傷症例」として整理してみましょう。
| 項目 | 内容 |
| 受傷機転 | 魔法(血清)による穿通外傷。速度・質量ともに中〜高エネルギーと推測。 |
| 刺入部位 | 左鎖骨下(前胸部上方)。 |
| 初期のリスク | 大量血胸(鎖骨下血管損傷)、緊張性気胸、腕神経叢損傷、縦隔損傷。 |
| 臨床的予測 | 血管損傷があれば数分でショック状態へ。一方で、肺尖部のみの貫通なら維持可能。 |
この部位の怖さは、一言で言えば**「重要構造物との距離が近すぎる」**ことにあります。
2. 左鎖骨下が「ヤバい」理由:そこは“大血管のハイウェイ”
鎖骨のすぐ裏側には、鎖骨下動脈・静脈という太い血管が走っています。
ここは外傷外科医にとって「最も出血を止めにくい場所」の一つです。
- 圧迫止血が効かない: 四肢の血管と違い、骨(鎖骨や第一肋骨)の裏にあるため、外から押さえても止血できません。
- アプローチが困難: 止血術には鎖骨切除や開胸が必要になることがあり、手術の難易度が一気に跳ね上がります。
つまり、あと数センチ内側か深くに逸れていれば、フェルンは即座に失血死していてもおかしくありません。
3. 考察:フェルンの傷道はどこを通ったのか?
筆者の見立てでは、あの貫通が「致命傷にならなかった」理由は、その水平な軌道にあります。
- 上方(鎖骨の裏)に潜れば、前述の鎖骨下血管を破壊。
- 内側(胸骨寄り)に寄れば、心臓や大動脈がある「縦隔(じゅうかく)」を直撃。
しかし、アニメや原作の描写を見ると、傷は肩に近い位置を「水平」に撃ち抜いています。
この場合、推定されるルートは以下の通りです。
前胸壁 → 胸腔(肺尖〜上葉部) → 後胸壁へ貫通
驚くべきことに、このラインは「最も危険な場所のすぐ隣にある、唯一の安全地帯(マシな場所)」を通っているのです。
4. 肺貫通=即死ではない?「保存的治療」のリアリティ
「肺を撃ち抜かれたら終わり」というイメージがあるかもしれませんが、現代医学において胸部穿通外傷は、必ずしも即手術ではありません。
以下の条件が揃えば、「保存的治療(手術をしない治療)」が選択されるケースも珍しくありません。
- 出血がコントロールされている(血胸が進行しない)。
- 呼吸・循環が安定している。
- 画像診断で大血管や心臓、気管支への損傷が否定される。
現実の治療なら、胸腔ドレーン(溜まった血や空気を出す管)を入れ、経過観察。
フェルンの場合も、魔法による応急処置で止血さえできていれば、医学的に「生存可能」な範囲内だと言えます。
5. 私見:リュグナーの“意趣返し”としての質が高すぎる
ここまで踏まえると、リュグナーの一撃の「嫌らしさ」が際立ちます。
- 場所は最悪: 「死」を予感させる最も怖い部位を狙う。
- 軌道は精密: あえて即死ルートを外し、激痛と恐怖を与えつつ生かしておく。
外傷外科的に言えば、「解剖学的に死ぬ場所を知り尽くした上で、ギリギリのラインで弄んでいる」。
リュグナーのプライドの高さと執念深さが、この「刺さり所のコントロール」に凝縮されているように感じます。
まとめ:左鎖骨下は“数センチで世界が変わる”
- 左鎖骨下は鎖骨下血管・縦隔に近い「超危険地帯」である。
- しかし「水平な貫通」であれば、肺の損傷のみで済む可能性があり、医学的に生存は成立する。
- 最大のポイントは、致命傷ルートを正確に外したリュグナーの「狙いの良さ」にある。
ファンタジー作品でありながら、この「数センチのリアル」がドラマを生んでいる。
そう考えると、あのシーンの深みがさらに増してきませんか?
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次に解説してほしい「漫画・アニメの傷病シーン」があれば、コメント欄で教えてください
最終更新日:2026年2月8日