【外傷外科医が解説】ジョセフは4分でなぜ蘇生できた?『全血輸血』と『外傷CPA』のリアルを徹底考察!


導入部

  • リード:DIOに大量の血を“吸い尽くされ”、脈も途絶えたかに見えたジョセフ。わずか4分で彼の命を救った“ディオの血”――すなわち全血輸血は、医学的にあり得るのか。**外傷性心停止(CPA)**の最前線を知る外科医として、その蘇生劇のリアリティを解剖します。
  • はじめに:本稿では、「吸血=急速大量出血性ショック」と「全血輸血による蘇生」の二点を、外傷医学の視点から検討します。刺創など他の損傷は致命的でなかったと仮定し、主病態を急速な血液喪失とします。

1. シーン/出典

項目内容
作品・出典『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』(集英社文庫 17巻)/荒木飛呂彦
場面最終決戦後、ジョセフがDIOに吸血され心停止様となるが、のちに“ディオの血”(=全血)で蘇生する。

2. 外傷の整理:ジョセフが置かれた極限状態

作中の描写から、ジョセフは急速に血液を“吸い上げられる”形でほぼ全量に近い失血を起こし、短時間で出血性ショックに陥っています。

  • 循環血液量: 成人の血液量は体重×約70 mL/kg(例:70kgで約5L)
  • 病態推定: 短時間に40–50%以上を失えば、CPAへ移行し得ます。描写からは、ほぼ全量近い失血に相当する極限的低灌流~無灌流が示唆されます。

補足:灌流(かんりゅう)について
体の組織に、血液がどれだけちゃんと流れて酸素と栄養を届けているかという指標。
十分に灌流がある=細胞が元気に働ける/灌流が落ちる=酸素が足りず臓器が弱っていく(ショックのときに起こる)。
イメージは「畑に水を送るホースの水量」:水(血液)が細くなると、畑(臓器)がすぐに弱る。

3. まず結論:ジョセフは“完全CPA”ではなかった可能性が高い

外傷が原因のCPAは、救命率・神経学的転帰ともに厳しく、即座に鮮明な覚醒は稀です。

したがって、作中のジョセフの描写と医学的整合性を考えると、彼は以下のいずれか(あるいは両方)だったと考えるのが合理的です。

  • 停止“直後”の極短時間: 心停止に陥っても無灌流時間が数十秒~数分以内だった。
  • 限界的低灌流: 心拍は残存するが全身灌流が危機的で、意識消失に至る直前だった。

この前提なら、「輸血直後にクリアに覚醒」という描写と矛盾しにくくなります。

4. “全血輸血”は理にかなうか?——究極のレスキューパック

現代医療では成分輸血(赤血球・血漿・血小板に分ける)が標準ですが、外傷の大量出血では(赤血球:血漿:血小板)で“ほぼ全血”を再現する方針が広く採用されています。

一方、全血輸血は軍事・一部民間で再評価され、酸素運搬・凝固能・循環量をワンショットで同時補正できる利点があります。

成分役割全血の利点
赤血球酸素運搬低酸素を即時に是正
血漿・血小板凝固・止血出血性凝固障害を同時に補正
全体循環ボリューム低血圧・低灌流を一挙に改善

結論: **「血を抜かれた」という設定に対し、全血輸血で一気に“量・酸素・止血”**を戻すのは医学的に筋が通ります。無(低)灌流時間が短ければ、迅速な意識回復も説明可能です。

【補足(現実世界)】

全血は保管条件で血小板機能が低下するため、真に“全部入り”として機能するのは新鮮または低温短期保存の全血に限られます。また実施には型判定・交差試験・感染対策が必要です。

5. まとめ:医学的考察と「波紋の呼吸」

考察ポイント現実の医学との整合性
蘇生の速さ完全なCPAではなく、極度のショック〜停止直後だったとみるのが妥当。
ディオの血(全血)大量失血後の蘇生策として、量・酸素・凝固を同時に補正できる点で理にかなっている。
呼吸(波紋)作中設定として、脳・心筋の灌流維持に有利に働き、短時間での明瞭な覚醒を補強できると解釈できる。

要点: 勝負はCPAに落ち切る前の低灌流フェーズです。ここで早期に**“量・酸素・凝固”**を同時に戻すことが、現実の外傷診療でも鍵となります。


参考文献(循環血液量について)

  1. American College of Surgeons. ATLS®: Advanced Trauma Life Support 11th ed. Chicago: ACS; 2023.

最終更新日:2025年10月11日

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