【医療者向け 解説】煉獄さんは救命できたか?
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
対象病態
- 心窩部を大きく貫通した杙創(impalement)。
- 複数の腹腔臓器や大血管損傷を高率に伴う状況。
残念ながら煉獄さんの救命は困難そうです。今回は主にCPAの際の蘇生的開胸について解説していこうと思います。施設によっても実際の適応基準などは異なると思います。
現実的な搬送想定
1) CPAで搬送された場合
- 蘇生的開胸(RT)の実施可否は、発生からの経過時間、現場・搬入時の生命兆候(signs of life)、外傷機序に依存する [1][2]。
- 適応を満たす状況では即時実施が求められるが、救命は極めて困難である [1][2]。
2) CPAではなくショックバイタルで搬送された場合
- ダメージコントロール蘇生(DCR)を並行しつつ、CTは行わず開腹へ直行する [4]。
- 切除可能臓器(脾臓、膵体尾部など)は切除で止血・汚染制御を図る [2]。
- 肝損傷はまずパッキング/Pringleで制御し、術後にIVRを併用。初回手術での切除は原則非推奨だが、左葉の明らかな離断などで止血不能なら限定切除を検討する [2]。
- ダメージコントロール手術として一時閉腹(例:AbThera)を行い、全身状態の立て直し → 再手術へ進む [2][4]。
- 術前心エコーで心嚢液貯留があれば、Pericardial windowで性状確認・血性であれば創部を延長して正中切開で開胸を考慮(バイタルが保たれている場面が対象) [1][2]。
蘇生的開胸(Resuscitative Thoracotomy; RT)
適応(代表例)
- 鋭的胸部外傷(刺創など)で、目撃下の心停止または搬入直前の循環途絶。病院到着時に生命兆候がある/直前まで存在していた [1][2]。
- CPAになってからの時間 ≲ 10〜15分(施設プロトコールに従う) [1][2]。
- 鋭的腹部〜胸腹境界外傷で重篤出血が疑われ心停止に移行した症例(胸腔・心嚢評価 + 大動脈遮断が必要) [1][2]。
- 鈍的外傷は適応が極めて限定的で、目撃下・短時間でなければ救命率は低い [1][2][6]。
- 現実的には鋭的であれ、鈍的であれ厳密に適応を満たす症例は稀(救急車内でCPAになったなど)。
- 目的は一時的なROSCではなく、最終的な救命です。
主目的
アプローチと要点
- 体位は仰臥位。左第4〜5肋間の側方開胸を標準とし、必要に応じてclamshell開胸へ延長する [1][2]。
- 心嚢は横隔神経前方を縦切開し、性状を確認[1]。
- 左肺を前方へ退避し、下行大動脈をクランプする。状況により肺門クランプを追加 [1][2]。
- 大量輸血プロトコール(MTP)・気道管理・Ca補正・保温を同時並行で実施 [4][5]。
- 派手な手技のため手技が注目を浴びることはよくありますが、蘇生などを同時並行で行う事が大切です(開胸したけど、輸血は投与してない、挿管してない・・・みたいなのは当然ダメ)
- 胸骨圧迫中ですが、一時的に止めてもらい開胸するので、速度も大切です。ただ、焦って医療者を切らないようにも注意しましょう(蘇生メンバーが一人減ります)。
中止基準(目安)
用語
Pericardial window(心嚢窓):
心嚢内出血の有無を直接確認する手技。剣状突起下あるいは経腹膜的に実施。陽性なら胸骨正中切開へ移行し修復する [1]。胸骨の裏面を追求しながら剥離していくと、比較的容易です。剣状突起はコッヘルなどで掴んで切除することが多い印象です。
蘇生的開胸(Resuscitative Thoracotomy; RT):心停止直前〜直後の重症外傷に対し、心嚢開放・心修復・大動脈遮断・直達心マッサージを目的に行う緊急開胸 [1][2]。
参考文献
- EAST Practice Management Guideline: Emergency Department Thoracotomy. J Trauma Acute Care Surg. 2015
- Western Trauma Association (WTA) Critical Decisions: Resuscitative Thoracotomy J Trauma. 2012;
- NAEMSP–ACS-COT Position Statement: Withholding and termination of resuscitation of adult traumatic cardiopulmonary arrest. J Trauma Acute Care Surg. 2013.
- European Resuscitation Council (ERC) Guidelines 2021: Cardiac arrest in special circumstances Resuscitation. 2021.
- Approach to Traumatic Cardiac Arrest in the ED Open Access. 2024.
- Contemporary utilization of resuscitative thoracotomy(AORTAコンソーシアム)。 J Trauma Acute Care Surg. 2018.
最終更新日:2025年10月13日