実際の外傷診療の流れ〈病院到着後〉

原則:命に関わることから順番に

世の中のすべての物事に決められたお作法があるように、外傷診療にも決められた順序があります。

外傷診療の基本は、まず一次評価(Primary survey)で生命の危険をつぶし、落ち着いたら二次評価(Secondary survey)で全身の診察に進むことです。
日本には JATEC という外傷初期診療のトレーニングコースがあり、多くの医師がこの考え方を土台にしています(米国のATLSという外傷コースを元に日本版にアレンジしたものがJATECです)。あくまで初期診療のため根本的な治療(具体的な止血方法など)をすべてカバーするわけではありませんが、手順に沿うことで重症患者の見落としを減らせるメリットがあります。

※ブログのメインテーマとは異なるので、読み飛ばしてもOK


0)到着直後:受け入れ

  • モニター装着(心電図・血圧・酸素飽和度)
  • 点滴/輸血ルートの準備、採血

患者が搬送されたら救急車まで迎えに行き、その場でざっくり重症度を確認。病院ベッドへ移すと同時にモニターを装着、看護師が点滴ルートを確保します。この時点で「事前イメージと比べて重症なのか・予想通りか・軽症か」を早く判断します。


1)Primary survey(一次評価)= ABCDE

ここで最も重要なのが ABCDE。突然英語でどうしたって思いますよね。生命活動に最も重要なのは酸素です。そのため、まずは、酸素の取り込み経路を順に確認します。

  • A:Airway(気道) — 息の通り道は確保できてる?
  • 呼びかけに反応する?声が出る?喉は詰まっていない?嘔吐物は?
  • よく行う処置:アゴ上げ、吸引、気管挿管
  • B:Breathing(呼吸) — 空気は肺まで入ってる?
  • 胸の上下差、息苦しさ、呼吸音(左右差)
  • 処置:酸素投与、胸腔ドレーン
  • C:Circulation(循環) — 出血で命が危なくない?
  • 皮膚の色(青白い)、脈拍、血圧、冷汗、外出血
  • 処置:圧迫止血、輸液・輸血、縫合・結紮・IVR・手術
  • D:Disability(意識・神経) — 脳は大丈夫?
  • 呼びかけへの反応、四肢の動き、瞳孔左右差
  • 必要に応じて鎮痛・鎮静・けいれん対応
  • E:Exposure / Environment(全身観察・保温)
  • 頭から足先まで観察(背中も忘れず)
  • 同時に保温(低体温は止血に不利)

少し長くなりましたが、酸素を取り込むために人間にとってABCDEというポイントは非常に重要です。そのため、我々は搬送されてきた患者さんのABCDEが崩れていないかを迅速に確認します。これは外傷診療以外でも一般的に救急の場では使われている概念です。

👉 ポイント:問題があればその場で処置 → 再びAからやり直す。命に関わるものを優先的につぶす。


2)Resuscitation(蘇生)と“すぐできる検査”

  • FAST(エコー):胸部や腹部に血液や空気がないか数分で確認
  • X線(胸部・骨盤):大量血胸・気胸・骨盤骨折を短時間で把握
  • 輸血:ショックなら即対応

不安定な場合は CTより止血が優先。そのまま開胸・開腹に進むこともあります。


3)Secondary survey(二次評価):落ち着いたら全身をくまなく

ここまで来て、患者さんの状態が安定していれば、詳しく患者さんの身体診察を行い、怪我をくまなく探していくことが大切になります。救急の現場で見落としをゼロにするのは不可能ですが、ここで可能な限りの見落としを無くします。

3-1 系統的チェック

  • 頭頸部:出血・腫れ・顔面や歯の損傷、首の痛み
  • 胸:肋骨痛、打撲痕、呼吸音
  • 腹:圧痛、張り、打撲痕(シートベルト痕など)
  • 骨盤・四肢:変形・痛み・しびれ、出血
  • 背部:体位変換で背中も確認
  • 神経所見:手足の動き・感覚・意識

3-2 追加検査と処置

  • 安定していれば造影CTで損傷部位や出血源を評価
  • 必要に応じて:縫合、固定、抗菌薬、追加輸血
  • 病歴確認:アレルギー、内服薬、既往・妊娠、最終飲食、受傷状況

👉 二次評価の目的は 見落としゼロ。小さな傷にも気づくようにする。


4)その後の流れ(ざっくり)

  • 損傷を一覧化し、全身状態とあわせて治療方針を組み立てる

よくある質問(一般向けQ&A)

  • Q:いきなり服を切られるの?
    A:命優先のため、全身を早く確認する目的で衣服を切開することがあります。服の下で出血していたり、濡れた衣服が体温を奪う可能性があるからです。
  • Q:どうしてCTにすぐ行かないの?
    A:不安定時はCT室までの移動・時間がリスク。その場で止血を優先します。
  • Q:家族は何を伝えればいい?
    A:既往歴・内服薬・アレルギー・最終飲食・受傷状況(MIST)が有用。身分証や連絡先も役立ちます。

まとめ(30秒)

  • 到着後はMIST再確認 → ABCDE(一次評価)で命に関わる問題を優先
  • 不安定ならCTより止血が先
  • 落ち着いたらSecondary surveyで全身をチェック → 必要な検査・処置へ

※このページは一般情報です。診断・治療の指示ではありません。緊急時は119、迷ったら医療機関へ。

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