外傷外科医が実際に診療で使う“武器”たち
はじめに
外傷診療の現場でも、医師は漫画のキャラクターのように様々な“武器”(=道具・検査)を使います。ここでは、外傷の初療でよく使う武器をやさしく紹介します。手術道具はマニアックなため、ここには入れていません。
※ブログのメインテーマとは異なるので、読み飛ばしてもOK
※施設によって設備は異なり、すべての病院に同じ装備があるわけではありません。
身体診察(フィジカル)の能力
最も原始的で、最も大切な武器。
外傷では生命の危機(ショック)で代償機構(頻脈・頻呼吸など)が働きます。医師はまず「代償が働いている=やばい」を素早く見抜く必要があります。
- バイタルサイン:血圧/脈拍/呼吸数/意識レベル など
- 観察・触診:出血、皮膚色、圧痛、腫れ
- 聴診・打診:胸の左右差、腸雑音 など(外傷では打診はあまりしないけど)
- 第六感に近い違和感(経験に基づく察知)も重要
聴診器
“医師といえば”の道具。外傷でも呼吸音の左右差が乏しい/聞こえにくい場合、気胸や血胸を疑う手がかりになります。ただし個人の感覚に依存し、救急現場は騒音も多いので解釈には注意。
血液検査
- ヘモグロビン(Hb):貧血の程度
- 凝固系:止血能の評価
- 血液ガス:酸素化・二酸化炭素・酸塩基平衡を迅速に把握
検査の代名詞でしょうか?ただし、急性期の大出血はHbにすぐ反映されないことや、結果が出るまでに時間がかかるため、初動の判断の主役ではないのが実感です。
エコー(超音波)
体内の液体(血)や空気を可視化。
外傷での大量出血部位と言うと 胸腔・腹腔・後腹膜・体外。このうち胸腔/腹腔の出血をエコーである程度確認することが可能です。また、気胸という胸腔内に空気が溜まっている状態もある程度判断することが可能です。短時間に/ベッドサイドで確認できるメリットがあり、現代の外傷診療では聴診器よりもなくては困る存在かもしれません。
レントゲン(X線)
健康診断でもおなじみ。外傷では搬送直後に胸部+骨盤をポータブル撮影します。
- 短時間で大量血胸・気胸・骨盤骨折などを評価
- ベッドサイドで完結 → 体動が難しい患者にも安全
CT
強力な診断ツール。X線を重ねて断面を立体的に評価できます。エコー/X線より診断精度が高いため非常に有用。
- 利点:損傷部位や出血源を高精度に同定
- 注意:撮影準備・搬送を含め時間がかかることがある/被ばくがある
- 不安定(ショック)時:CTより止血が先になることがある(手術やIVRへ直行)
まとめ(30秒)
- 一番の武器は身体診察。代償サインを見逃さない
- エコー&X線で“今すぐ必要な判断”を短時間で
- CTは強いが、不安定なら止血優先という原則
※本記事は一般的な情報です。診療の指示ではありません。体調不良や緊急時は119番、または医療機関にご相談ください。