【外傷総論】鋭的損傷と鈍的損傷ってなに?
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
外傷総論:鋭的損傷と鈍的損傷の違いを解説
外傷と聞くと、皆さんはどのようなイメージがありますか?ニュースで報道されるような、刃物などによる事件なのか、交通事故などがイメージされるでしょうか?大きく分けて、2つの受傷機転(どう怪我したか)が外傷には存在します。今回はその2つの受傷機転について解説します。
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鋭的損傷(えいてきそんしょう)
とがった/切れる道具で “スパッ・ズブッ” と傷がつくタイプの損傷です。
- 例: 包丁、ナイフ、ガラス片、矢、銃弾 など
- イメージ: 「細く深く」刺さる・切れる。点での損傷。
- 医療での考え方: 見た目が小さくても、刃先(先端)がどこまで届いたかが最重要となります。
- 日本では?: 海外よりは少なく、比較的まれなケースです。
日本では鋭的損傷はたまに起こる事件や自傷行為が大半を占めます。治安が良いという意味では鋭的損傷が少ないことは良いことですが、診療に慣れている医師が少ないというのも事実です。鋭的損傷で大切なことは、傷が身体のどこまで到達しているかです。どのような向きで、どの程度の力で外傷が加わったのかということが非常に重要になります。
特に、胸部と腹部は隣接しており、胸部を刺した傷が実は腹腔内臓器まで到達していたということも稀ではありません。このような患者さんを診療する際に、外傷外科医がいない場合、診療のリーダーは胸部外科医か消化器外科医のどちらでしょうか?科の垣根を越えてスムーズな診療を行える外傷外科医は必須の存在だと考えます。
鈍的損傷(どんてきそんしょう)
硬いものに強くぶつかって “ドンッ” とつぶれるタイプの損傷です。
- 例: 交通事故、転落、墜落、転倒、スポーツでの衝突、暴行(殴打) など
- イメージ: 「広く強く」力がかかって面での損傷。
- 医療での考え方: 外側は軽そうに見えても、中で出血や臓器損傷が隠れていることがあるため、注意が必要です。
- 日本では?: 外傷の多くはこちらが圧倒的に多いです。
鈍的損傷は面で組織がダメージを受けるというイメージです。そのため、どの向きで力が加わったのかが、損傷臓器の想定に繋がります。
例えば、足から墜落すれば、大腿骨や骨盤などが折れる可能性が高いですし、腹部正中を強く打ったとなれば、腸管、肝臓左葉、膵臓、脊椎などの損傷の可能性が高いと判断します。
交通外傷や墜落外傷など派手な受傷(高エネルギー外傷)が多いと思われるかもしれませんが、高齢化が進んだ日本では、普通に歩いていて転倒し、大怪我をする患者さんも多くいます(実際に転倒という低エネルギーの外傷でも手術が必要であった方を多く経験しています)。この高齢者における低エネルギー外傷への対応も、日本の外傷診療における重要な課題の一つです。
まとめ
| 種類 | 受傷の仕方 | 力の伝わり方 | 医療でのポイント |
| 鋭的損傷 | 尖った/切れるもので「スパッ・ズブッ」 | 点での損傷、「細く深く」 | 傷の深さと到達臓器の特定 |
| 鈍的損傷 | 硬いものに強くぶつかり「ドンッ」 | 面での損傷、「広く強く」 | 見えない内部損傷(出血・臓器)の有無 |
この記事では、外傷を理解する上で基本となる**「鋭的損傷」と「鈍的損傷」**の違いを解説しました。受傷機転を知ることは、適切な治療へ繋がる第一歩となります。
参考
Japan Trauma Data Bank Report 2022 (2019.1–2021.12). Tokyo: Japan Trauma Care and Research; 2022.Available at: https://www.jtcr-jatec.org/…(accessed 2025-09-18)