【外傷外科医が解説】るろうに剣心・志々雄真実の“肩噛み大量出血”は成立する?――左肩からあそこまで血は噴くのか
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
『るろうに剣心』16巻137話。
剣心と志々雄真実の戦いの中で、志々雄が剣心の左肩に噛みつき、大量に出血するシーンがあります。
この場面、漫画としてはかなり印象的です。
「噛みつく」という原始的な攻撃なのに、絵としてはまるで太い血管でも切れたかのように血が噴き出る。るろ剣らしい勢いのある描写だと思います。
ただ、外傷外科医の視点で見ると、ここで一番気になるのはシンプルにこの一点です。
本当に“噛みつき”で、左肩からここまで出血するのか?
結論から言うと、かなり出血しているように見えるけれど、現実にはここまではさすがに出血しない可能性が高い、というのが私の考えです。
今回はこのシーンを、解剖と外傷の観点から考えてみます。
るろうに剣心を読みたくなった方は是非こちらから
. まずは外傷として整理してみる
作中の状況を、いったん外傷症例として整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品・場面 | 『るろうに剣心』16巻137話、志々雄が剣心の左肩に噛みつく場面 |
| 外傷の種類 | 咬傷(こうしょう) |
| 受傷部位 | 左肩上部〜肩外側寄り |
| 作中の印象 | 血液が勢いよく噴き出す、大量出血に見える |
| 医学的に気になる点 | どの深さまで届けば、あのレベルの出血になるのか |
ここで大事なのは、肩は見た目ほど“むき出しの大血管地帯”ではないということです。
もちろん、肩周囲にも血管はあります。
ただし、漫画のような「ブシャーッ」とした出血を説明しようとすると、単なる皮膚裂傷や筋損傷では少し苦しい。
つまり、あの描写を本気で医学的に説明しようとすると、
「筋肉からの出血」ではなく、「かなり太い血管をやっているのでは?」
という話になってきます。
2. 左肩のその場所、実際には何があるのか
左肩の上の方には、皮膚・皮下組織の下に筋肉があります。
代表的なのは僧帽筋で、そのさらに深部には別の筋群、そして骨格として鎖骨や肩甲骨周囲の構造があります。
ここで重要なのは、大物の血管である鎖骨下動脈は、その名の通り“鎖骨の下”を走っているということです。
つまり、外から見て「肩の上を噛んだ」ような位置から、いきなり鎖骨下動脈をズタズタにするのは、現実にはかなり難しい。
なぜか。
理由は単純で、そこには筋肉だけでなく骨があるからです。
鎖骨下動脈に本当に届くような深さまで損傷を入れようと思うと、かなり深部まで破壊しなければならない。しかも途中には鎖骨という“硬い壁”がある。
外傷外科的な感覚で言えば、刃物で角度よく刺すならまだしも、人が噛んで到達するには無理があるという印象です。
3. 噛みつきで大出血は起こるのか?
では、咬傷そのものはどうか。
結論から言えば、噛みつきでそれなりに出血すること自体は普通にあり得ます。
顔面や耳介、指など、皮膚が裂けやすい部位なら特にそうです。肩でも、皮膚が裂けて皮下出血や筋層の損傷を伴えば、見た目にかなり血が出ることはあります。
ただし、ここでいう「かなり血が出る」は、あくまで現実の話です。
漫画のこのシーンのように、
- 太い動脈が開いたように
- 勢いよく
- 派手に噴き出し続ける
となると、話は別です。
このレベルを説明するには、やはり比較的太い血管の損傷を考えたくなります。
でも、その候補として真っ先に浮かぶ鎖骨下動脈は、先ほど述べたように位置が深すぎる。
つまりこのシーンは、
出血量の描写としては、筋肉や皮膚の損傷を明らかに超えている
でも、そこまでの大血管を噛みつきで損傷するのは現実には難しい
という、少し宙ぶらりんな立ち位置になります。
しかし、少し面白い事に、動物咬傷では深部血管損傷の報告はあります。実際、ラクダ咬傷では鎖骨下動脈損傷を伴った症例報告があったり、犬による頚部血管の損傷などはあるようです。
4. もし本当にあそこまで出血するなら、何を損傷しているのか
このシーンを“成立させる”方向で無理やり考えるなら、候補は2つです。
パターンA:肩ではなく、実はもう少し頸部寄りを深く損傷している
もし噛みついた位置が、見た目よりも肩というより頸部付け根寄りで、しかもかなり深く組織を破壊しているなら、血管損傷の可能性はゼロではありません。
ただ、それでもやはり「人の歯」でそこまで到達するのは簡単ではありません。
よほどの顎の力と、組織をごっそり持っていくような破壊が必要になります。
志々雄の力と剣心の小柄さが合わされば・・・と少し思いますが、鎖骨下動脈損傷は致死的な血管損傷のため、後の描写としてもあまり合わないと思います。
パターンB:描写として“血を盛っている”
こちらの方が、正直しっくりきます。
つまり、実際の損傷は皮膚・皮下組織・筋損傷レベルだが、漫画として迫力を出すために出血描写が大幅に誇張されているという考え方です。
るろうに剣心は、剣戟漫画として血が噴くシーンが比較的多い作品です。
なので、この肩咬傷も「医学的なリアル」というより、「戦いの凄惨さと志々雄の異様さを見せる演出」と考える方が自然だと思います。
5. 私見:鎖骨下動脈損傷は、さすがに厳しい
個人的にこのシーンで一番言いたいのはここです。
あの出血量を見ると、つい「かなり太い血管をやっているのでは」と考えたくなる。
でも、その最有力候補である鎖骨下動脈は、さすがに噛んで届く場所ではない。
鎖骨下動脈は重要血管ですし、実際に損傷すれば非常に危険です。
ただし名前の通り、かなり守られた場所にあります。
だからこそ、外傷でもこの血管の損傷は「肩を少しやられた」程度では起こりません。
刃物で深く刺される
銃創のように高エネルギーで破壊される
骨折を伴う強い外力で周囲構造ごと壊れる
こういった文脈なら理解できます。
しかし、今回のような咬傷単独で、しかも漫画の見た目の位置関係から、それを説明するのはかなり無理があると思います。
まとめ:出血はありうる。でも、あそこまで“噴く”のはやりすぎ
今回のシーンをまとめると、こんな感じです。
- 左肩の咬傷である程度出血すること自体は普通にありうる
- ただし、作中のような大量噴出レベルになると、筋肉や皮膚の損傷だけでは説明しにくい
- そこまでの出血を説明するには太い血管損傷を考えたくなる
- しかし候補となる鎖骨下動脈は鎖骨の下にあり、人間の噛みつきで到達するのはかなり難しい
- 結論として、現実ではここまではさすがに出血しないだろう、というのが妥当
つまりこの場面は、医学的リアルさで言えばやや盛っている。
でも、その“盛り”によって、志々雄というキャラの異常性や、戦いの凄惨さが強く伝わるシーンになっているとも言えます。
こうやって見てみると、るろうに剣心は意外と「血が噴き出る描写」が多い漫画でもあります。
改めて読み返すと、
「これ、現実ならどうなる?」
と思う場面が結構あるかもしれません。
興味がある方は、また見返してみてください。