【外傷外科医が考察】悟空vsピッコロ――右胸を貫かれても悟空はなぜ動けたのか?

漫画の怪我考察

『ドラゴンボール』の天下一武道会、悟空vsピッコロの戦い。

この戦いの終盤で、悟空は右胸を貫かれてしまいます。

胸を貫かれる。

普通に考えると、かなり致命的な外傷です。

読者としても、

「いや、これはさすがに即死では?」

と思ってしまう場面ではないでしょうか。

しかし、外傷外科医の視点からこのシーンを見てみると、少し違った見方ができます。

結論から言うと、

悟空の耐久力を前提にすれば、あの傷で即死しなかったこと自体は、意外と説明できます。

もちろん普通の人間なら重症です。
命に関わる外傷であることは間違いありません。

ただし、胸を貫かれたからといって、必ずその場で即死するわけではありません。

今回はこの場面を、胸部外傷として考えてみます。


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胸は急所だが、すべての場所が同じ危険度ではない

まず大前提として、胸は人体の急所です。

胸の中には、命に直結する臓器が詰まっています。

特に重要なのは、

  • 心臓
  • 大動脈
  • 肺動脈
  • 肺静脈
  • 上大静脈・下大静脈

といった臓器や血管です。

これらを損傷すれば、短時間で致命的な出血や心停止に至る可能性があります。

ただし、ここで重要なのは、

胸のどこを損傷したか

です。

胸部外傷は、同じ「胸を刺された」「胸を貫かれた」でも、場所によって危険度が大きく変わります。

特に危険なのは、胸の正中寄りです。

胸の真ん中には心臓や大血管があります。
ここを貫かれれば、かなり高い確率で致命的です。

一方で、胸の左右外側には主に肺があります。

もちろん肺も重要な臓器ですが、肺だけの損傷であれば、心臓や大血管の損傷に比べると、即死の可能性は下がります。

つまり、

胸=全部即死ではない

ということです。


悟空の傷はどこを貫いているのか

このシーンを外傷として見ると、悟空は右胸の外側を前から後ろに貫かれているように見えます。

真正面の胸の中央ではなく、やや外側です。

ここがかなり重要です。

胸の正中に近ければ、心臓や大血管の損傷を疑います。
しかし、右胸の外側を前後に貫通しているのであれば、主に損傷されるのは右肺です。

つまり、この外傷は医学的には、

右肺損傷を伴う穿通性胸部外傷

として考えるのが自然です。

もちろん軽傷ではありません。

肺に穴が開き、胸の中に血液や空気が漏れます。
普通の人間なら、その場で倒れて動けなくなってもまったく不思議ではありません。

ただ、心臓や大動脈を直撃していないのであれば、

その瞬間に必ず即死する外傷ではない

とも言えます。


肺を損傷すると何が起きるのか

肺が損傷すると、主に問題になるのは次の3つです。

起こること内容危険性
気胸肺から漏れた空気が胸腔内にたまる肺がしぼみ、呼吸が苦しくなる
血胸肺や胸壁から出血し、胸腔内に血液がたまる出血性ショックの原因になる
喀血気道内に血液が流れ込む口から血を吐く、窒息の原因になる

肺は空気を取り込む臓器ですが、血流も非常に豊富です。

そのため肺が傷つくと、空気も血液も漏れます。

胸の中に空気がたまれば気胸。
血液がたまれば血胸。
気道側に血液が流れ込めば、口から血を吐くことになります。

悟空がこの場面で口から血を吐いている描写は、実はかなりリアルです。

右肺が貫かれ、肺の中の血液が気管支を通って口から出てきた。
そう考えると、医学的にはかなり納得できます。


肺損傷だけなら手術しないこともある

現実の外傷診療でも、肺損傷は決して珍しくありません。

交通外傷や転落、刺創、銃創などで肺が損傷することがあります。

しかし、肺が損傷したからといって、必ず手術になるわけではありません。

患者さんの呼吸や血圧が安定していて、出血が持続していなければ、胸腔ドレーンを入れて経過を見ることもあります。

胸腔ドレーンとは、胸の中にたまった空気や血液を外に逃がすための管です。

つまり、肺損傷は重症外傷ではあるものの、

安定していれば保存的に診ることもある外傷

です。

ここが、心臓や大血管の損傷との大きな違いです。

心臓や大動脈が破れれば、多くの場合、緊急手術や緊急処置が必要です。

一方で、肺損傷は程度によっては、すぐに手術せずに対応できることがあります。

そう考えると、悟空の傷が右肺中心の損傷だったとすれば、少なくとも「その場で即死しない」ことはあり得ます。


では普通の人間なら助かるのか?

ここは少し冷静に考える必要があります。

悟空だから動けたのであって、普通の人間ならかなり危険です。

右胸を前から後ろに貫かれるような外傷があれば、

  • 大量血胸
  • 緊張性気胸
  • 呼吸不全
  • 出血性ショック
  • 気道内出血による窒息

などを起こす可能性があります。

特に怖いのは、緊張性気胸です。

肺から漏れた空気が胸の中にたまり続けると、肺がつぶれるだけでなく、心臓や反対側の肺を圧迫します。
その結果、血圧が下がり、最終的には心停止に至ることがあります。

また、血胸が大量になれば出血性ショックになります。

肺損傷だけであっても、出血量が多ければ当然命に関わります。

つまり、

肺だけなら安全という意味ではありません。

あくまで、

心臓や大血管の損傷に比べれば、即死の可能性は低い

ということです。


悟空なら動けてもおかしくない理由

では、悟空の場合はどうでしょうか。

悟空は普通の人間ではありません。

体の強さ、痛みへの耐性、出血や低酸素への耐久力は、明らかに常人を超えています。

その前提で考えると、右肺を貫かれても、短時間なら動ける可能性はあります。

現実でも、肺損傷を負った患者さんが意識を保っていることはあります。
胸を刺されても、搬送時に会話できる人もいます。

もちろん、その後に急変することはあります。
しかし、受傷直後から必ず即死するわけではありません。

まして悟空であれば、

「右肺をやられたが、心臓と大血管は外れている」

という状態なら、最後の力を振り絞って動けたとしても、漫画的にはかなり納得できます。

むしろ、悟空の耐久力を考えると、

この程度の胸部外傷で完全に動けなくなる方が不自然

とすら言えるかもしれません。


外傷として整理してみる

観察ポイント医学的に考えられること
右胸の外側を貫かれている右肺損傷が中心と考えられる
胸の正中ではない心臓・大血管直撃の可能性は相対的に低い
口から血を吐いている肺損傷による気道内出血として説明可能
すぐに即死していない肺単独損傷ならあり得る
その後も動いている普通の人間では厳しいが、悟空なら成立し得る

こう整理すると、このシーンはかなり絶妙です。

胸を貫かれるという見た目のインパクトは非常に強い。
しかし、損傷部位を外側にずらすことで、医学的には「即死を避けられる場所」になっています。

これは意図して描かれたかどうかは分かりませんが、外傷外科医の視点から見るとかなり面白いポイントです。


このシーンのリアルなところ

この場面で特にリアルだと思うのは、口から血を吐いている描写です。

胸部外傷で口から血が出ると、一般的には「内臓がやられた」「致命傷だ」と見えます。

もちろん重症ではありますが、医学的には肺損傷でかなり説明しやすい描写です。

肺の中には気管支があります。
肺が損傷して出血すると、その血液が気管支を通って気道に流れ込みます。
それが咳や呼吸とともに口から出てくる。

つまり、悟空が吐血しているように見える描写は、

消化管からの吐血というより、肺からの喀血

と考える方が自然です。

このあたりは、外傷として見ると非常にリアルです。


まとめ:右胸なら、悟空は即死しない

悟空vsピッコロの天下一武道会で、悟空の右胸が貫かれるシーン。

一見すると、完全に即死級の外傷に見えます。

しかし、外傷外科医の視点で見ると、ポイントは「胸のどこを貫かれたか」です。

胸の正中を貫かれていれば、心臓や大血管損傷の可能性が高く、かなり致命的です。

一方で、右胸の外側を前から後ろに貫かれたのであれば、主な損傷は右肺と考えられます。

肺損傷はもちろん重症ですが、心臓や大血管の損傷に比べれば、即死しないこともあります。
現実の外傷診療でも、肺損傷だけで安定していれば、手術せずに経過を見ることもあります。

そして、口から血を吐く描写も、肺損傷による気道内出血と考えればかなり自然です。

普通の人間なら命に関わる重症外傷です。
しかし悟空の耐久力を前提にすれば、あの場面で即死せず、なお動けたことは医学的にも完全な荒唐無稽とは言い切れません。

むしろ、

「右胸外側を貫かれたからこそ、悟空はまだ動けた」

そう考えると、このシーンはかなりよくできた胸部外傷描写だったのかもしれません。

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