【外傷外科医が考察】ドラゴンボール:ベジータはなぜ死んだ?フリーザのビームは致命傷だったのか

漫画の怪我考察

本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。


『ドラゴンボール』において、ベジータは非常に魅力的なキャラクターです。

正義の味方ではない。
かといって、単なる悪役でもない。

誇り高く、残酷で、執念深い。
それでいて、どこか人間くさい。

悟空と最後まで競い続けた存在であり、ドラゴンボールという作品の中でも、かなり重要なキャラクターの一人だと思います。

今回は、そんなベジータがナメック星で命を落とす場面について考えます。

自分こそがスーパーサイヤ人だと信じ、フリーザに立ち向かったベジータ。
しかし、力の差はあまりにも大きく、最終的にはフリーザのビームで胸を貫かれて死亡します。

この場面、外傷外科医の視点で見ると、なかなか考察しがいがあります。

というのも、ベジータが撃ち抜かれた場所は、胸部です。
しかも、よく見ると左胸部に見えます。

以前、悟空がピッコロとの戦いで胸を貫かれた場面を考察しましたが、あちらと比較しても興味深いです。

悟空は胸を貫かれても生存した。
一方で、ベジータは死亡した。

では、なぜベジータは死んでしまったのでしょうか。

今回はこの場面を、外傷外科医の視点から考察してみます。


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ベジータの創部は左胸部

まず、フリーザのビームが当たった位置を考えます。

描写を見ると、創部は右胸部ではなく、左胸部に見えます。

胸の中央ではなく、やや外側。

この時点で、右胸部損傷とは少し意味が変わってきます。

右胸部であれば、まず考えるのは肺損傷です。
もちろん右側にも大血管はありますが、心臓そのものからは少し離れます。

一方、左胸部となると話は別です。

左胸部には、左肺があります。
さらにその内側には、心臓があります。
心臓から出る大動脈も近くにあります。

つまり、左胸部の貫通創は、肺だけでなく、より心臓や大血管に近い損傷として考える必要があります。

もちろん、描写上は創部が少し外側に見えるため、心臓を完全に貫いているとは言いにくいです。
ただ、心臓や大動脈に「かすっていた」可能性はゼロではありません。

ここが、ベジータの死を考えるうえでかなり重要です。


損傷臓器として最も自然なのは左肺

まず、一番自然に考えられるのは左肺損傷です。

左胸部を前から後ろへビームが貫通したのであれば、左肺に穴が開いた可能性が高いです。

肺が損傷すると、胸の中に空気や血液が漏れます。

代表的には、

起こりうる病態内容
気胸肺から空気が漏れて、肺がしぼむ
血胸肺や胸壁の血管から出血し、胸の中に血液がたまる
肺挫傷肺そのものが傷んで、酸素を取り込みにくくなる
喀血気道内に血液が流れ込む
呼吸不全酸素化が悪くなり、生命維持が難しくなる

肺損傷だけでも、十分に重症です。

ただし、肺損傷だけであれば、必ず即死するとは限りません。

現実の外傷診療でも、胸部刺創や銃創で肺損傷を起こしていても、搬送時に意識がある患者さんはいます。
胸腔ドレーンを入れ、出血を評価し、手術加療も必要ない場合もあります。

つまり、左肺損傷は重症ではあるものの、それだけで必ず死亡するとは言い切れない損傷です。

では、なぜベジータは死んだのか。

ここで、もう少し危険な可能性を考える必要があります。


左胸部なら、心臓や大動脈損傷も完全には否定できない

左胸部の貫通創で最も怖いのは、肺損傷だけではありません。

その内側にある、心臓や大血管の損傷です。

創部はやや外側に見えるため、心臓のど真ん中を貫いたようには見えません。
しかし、ビームの角度や体勢によっては、心臓に近い部分を通過していた可能性があります。

特に考えたいのは、次のような損傷です。

損傷部位起こりうること
左肺気胸、血胸、肺出血、呼吸不全
心臓心嚢内出血、心タンポナーデ、致死的不整脈
大動脈急速な大量出血、ショック
肺門部血管肺動脈・肺静脈損傷による大量出血
肋間動脈・内胸動脈胸腔内出血

特に、心臓や大動脈に完全な穴が開けば、ほぼ致命的です。

心臓損傷では、心臓の周りに血液がたまる心タンポナーデが起こることがあります。
これは、心臓が外から圧迫されて十分に拍動できなくなる状態です。

また、大動脈や肺門部血管のような太い血管を損傷すれば、短時間で大量出血に至ります。

ベジータの場合、創部がやや外側に見えるため、心臓や大動脈の完全損傷とまでは断定できません。

ただし、左胸部の貫通創である以上、

心臓や大動脈の近くをビームが通過し、部分的に損傷していた可能性

は考えてよいと思います。

つまり、ベジータの致命傷は単なる「肺に穴が開いた」だけではなく、肺損傷に加えて、心臓・大血管周囲の損傷が重なった胸部外傷だった可能性があります。


フリーザのビームは普通の刺し傷ではない

さらに重要なのは、フリーザの攻撃が普通の刃物や銃弾ではないことです。

これはビームです。

現実の外傷に無理やり近づけるなら、刺創や銃創のような貫通創に近いかもしれません。
しかし、ビームである以上、単に組織を押し分けて穴を開けるだけではなさそうです。

熱やエネルギーによって、周囲の組織も破壊している可能性があります。

つまり、見た目の穴よりも、内部の損傷範囲が広かった可能性があります。

左肺に穴が開くだけでなく、周囲の血管が焼灼される。
肺門部の血管が損傷する。
心臓や大血管の近くに熱損傷が及ぶ。
心筋に直接穴が開かなくても、強いエネルギーで不整脈が起こる。

こう考えると、ベジータの損傷はかなり重いです。

普通の胸部刺創というより、高エネルギーの左胸部貫通外傷として考えた方が自然です。


それでも「即死」ではなかった

ただし、ベジータはビームを受けた直後に完全に即死したわけではありません。

最期に悟空と言葉を交わしています。
自分たちサイヤ人のこと、フリーザへの怒り、そして悟空への思いを語ります。

この描写を考えると、心臓や大動脈が完全に破裂して、一瞬で循環が破綻したというよりは、短時間は意識を保てる程度の循環が残っていたと考える方が自然です。

つまり、医学的には次のような状態が考えやすいです。

  • 左肺損傷による呼吸障害
  • 胸腔内出血
  • 心タンポナーデ
  • すでに蓄積していた全身ダメージ
  • 最終的な外傷性ショック

完全な即死ではなく、少しの時間をかけて生命維持ができなくなった。

この方が、描写とも合うと思います。


ベジータはすでに瀕死だった

そして、もう一つ大事なのが、ベジータの受傷前の状態です。

フリーザのビームを受ける前から、ベジータはすでに相当なダメージを受けています。

自分こそがスーパーサイヤ人だと信じて立ち向かうものの、フリーザとの力の差は圧倒的でした。
攻撃はほとんど通じず、逆に一方的に痛めつけられます。

最終的には、まともに戦うことも、立っていることも難しい状態になっていました。

この時点で、医学的に考えるなら、ベジータはすでに多発外傷に近い状態だったと考えられます。

外から見える傷だけでなく、体の中ではさまざまな損傷が起きていた可能性があります。

それまでのダメージ起こりうる影響
全身打撲筋損傷、内出血、強い疼痛
胸部へのダメージ肺挫傷、肋骨損傷、呼吸障害
腹部へのダメージ肝損傷、脾損傷、腹腔内出血
頭部へのダメージ意識障害、判断力低下
出血・脱水循環血液量低下、ショック
疲弊代償能力の低下

外傷では、一つひとつの損傷だけで死ぬとは限りません。

肺損傷だけなら助かるかもしれない。
胸部打撲だけなら助かるかもしれない。
腹部の軽い出血だけなら耐えられるかもしれない。

しかし、それらが積み重なると、体の余力は急速に失われます。

ベジータは、フリーザのビームを受けた時点で、すでに限界に近かった。
そこに左胸部貫通創が加わった。

これが、死亡につながった大きな理由かもしれません。


悟空は助かり、ベジータは死んだ理由

ここで、悟空との違いを考えてみます。

悟空も、ピッコロとの戦いで胸を貫かれています。
それでも悟空は生存しました。

一方、ベジータはフリーザのビームで胸を貫かれ、死亡しました。

この差はどこにあったのでしょうか。

大きく分けると、3つあると思います。

比較項目悟空ベジータ
受傷部位右胸部貫通創左胸部貫通創
受傷前の状態まだ耐える余力があったすでに瀕死に近い状態
損傷の可能性肺損傷が中心と考えやすい肺に加え、心臓・大血管近傍損傷もありうる
結果生存死亡

もちろん、悟空もかなり重症だったはずです。
普通に考えれば、胸部貫通創は命に関わる大けがです。

ただ、ベジータの場合は、創部が左胸部であることに加えて、受傷前から瀕死に近い状態だったことが大きい。

つまり、ベジータは単に「胸を撃たれたから死んだ」のではなく、

すでに限界だった体に、心臓や大血管に近い左胸部貫通創を受けたため、耐えきれなかった

と考えるのが自然だと思います。


治療できれば助かったのか

では、現実の医療で考えた場合、ベジータは助かったのでしょうか。

これは損傷の程度によります。

もし左肺損傷が中心で、心臓や大血管が無事であれば、助かる可能性はあります。
胸腔ドレーンを入れ、輸血を行い、必要に応じて開胸手術を行う。
出血源を止め、呼吸を支えれば、生存の可能性はゼロではありません。

しかし、心臓や大動脈、肺門部血管を損傷していた場合はかなり厳しいです。

特に大血管損傷では、短時間で大量出血に至ります。
心タンポナーデや致死的不整脈が起きれば、すぐに処置しなければ助かりません。


ベジータの死因を医学的にまとめるなら

ベジータの死因を医学的に表現するなら、次のようになると思います。

フリーザの高エネルギービームによる左胸部貫通外傷。主病態は左肺損傷による血気胸・呼吸不全と考えられるが、創部が左胸部であることから、心臓・大動脈・肺門部血管への近接損傷も否定できない。さらに受傷前からの多発外傷・疲弊・循環予備能低下が重なり、外傷性ショックに至った。

分かりやすく言うなら、こうです。

ベジータは、胸を撃たれた一撃だけで死んだというより、すでに限界まで痛めつけられた状態で、心臓や大血管にも近い左胸部を貫かれた。そのため、体が耐えられる余力を完全に失った。

これが一番しっくりくる考え方だと思います。


まとめ:ベジータは「余力のない状態」で左胸部を撃ち抜かれた

ベジータが死亡した理由を、外傷外科医の視点で考えると、単純に「胸を撃たれたから」とは言い切れません。

もちろん、左胸部貫通創は非常に重症です。
左肺損傷による血胸、気胸、呼吸不全は十分に命に関わります。

さらに左胸部である以上、心臓や大動脈に近い損傷だった可能性もあります。
創部はやや外側に見えるため、心臓を直撃したとは断定できません。
それでも、ビームの通り道やエネルギーの広がりを考えると、心臓や大血管をかすっていた可能性はゼロではありません。

そして何より重要なのは、ベジータがビームを受ける前から、すでに瀕死に近い状態だったことです。

外傷では、一つひとつの傷だけではなく、全身状態が生死を分けます。

同じような胸部貫通創でも、受傷前に余力がある人と、すでに限界まで追い込まれている人では、結果が変わります。

悟空は助かった。
ベジータは助からなかった。

その差は、創部の位置だけではありません。

ベジータの場合は、

  • 左胸部という危険な場所
  • 肺損傷
  • 心臓・大血管近傍損傷の可能性
  • フリーザのビームによる高エネルギー外傷
  • それまでに蓄積した全身ダメージ
  • 治療手段のない状況

これらが重なった結果、死亡したと考えるのが自然です。

ベジータの死は、単なる「胸を撃たれたから死んだ」という場面ではありません。

限界まで痛めつけられてもなお、自分の誇りを捨てず、最後に悟空へ思いを託した場面です。

医学的に見れば、ベジータは余力を失った状態で、心臓や大血管に近い左胸部を貫かれた重症多発外傷患者だった。

そう考えると、あの死はかなり医学的にも納得できるものだったと思います。

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