本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
『HUNTER×HUNTER』の中でも、ヒソカ vs クロロの戦いはかなり衝撃的な展開でした。
天空闘技場での死闘の末、ヒソカはクロロに敗れます。
この場面で興味深いのは、ヒソカの死因についての説明です。
シャルナークは、ヒソカが爆発による外傷で死亡したというよりも、爆発で発生した大量の人形や瓦礫に押しつぶされ、酸素が取り込めなくなったことによる窒息死だったと考察しています。
つまり、直接的に体がバラバラになるような外傷ではなく、
酸欠によって呼吸が止まり、その結果として心停止に至った
という見立てです。
そしてヒソカは、自分の念能力であるバンジーガムを「死後強まる念」として心臓と肺に作用させ、心臓マッサージと人工呼吸のようなことを自分自身に行い、蘇生します。
漫画としては非常に印象的な場面です。
では、これを現実の医学、特に外傷診療の視点で考えるとどうでしょうか。
結論からいうと、
窒息による心停止であれば、蘇生の可能性がゼロとは言い切れません。
しかし、ヒソカのように後遺症なく完全復活するのは、現実的にはほぼ不可能です。
今回はこのシーンを、外傷外科医の視点で考察してみます。
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まず、ヒソカは何で死んだのか?
この場面では、ヒソカは爆発に巻き込まれています。
普通に考えれば、
「爆発で重症外傷を負って死んだのでは?」
と思うところです。
爆発外傷では、体表の損傷だけでなく、肺損傷、鼓膜損傷、腹部臓器損傷、四肢の切断、熱傷など、さまざまな外傷が起こりえます(爆傷関連のこの記事も是非)。
しかし、作中ではシャルナークが、ヒソカの死因について少し違う見方をしています。
爆発そのものによる致命傷というよりも、周囲の人形や瓦礫に埋もれたことで呼吸ができなくなり、窒息したのではないか、という考察です。
これは、医学的に見るとかなり重要な違いです。
なぜなら、
出血による心停止なのか
窒息による心停止なのか
によって、蘇生の可能性が大きく変わるからです。
出血による心停止は、心臓マッサージだけではほぼ助からない
外傷診療で最も厳しい心停止のひとつが、出血による心停止です。
たとえば、腹腔内出血、胸腔内出血、骨盤骨折による大量出血、大血管損傷などで大量に血液を失った場合、最終的に心臓が止まります。
このときに問題なのは、心臓そのものが止まっていることだけではありません。
そもそも、
全身に送るための血液が足りない
ということが本質です。
この状態で心臓マッサージをしても、押し出す血液がなければ意味がありません。
もちろん、心肺蘇生そのものは行います。
しかし、出血による外傷性心停止では、心臓マッサージだけで蘇生することはほとんど期待できません。
必要なのは、
| 必要な対応 | 目的 |
|---|---|
| 大量輸血 | 失われた血液を補う |
| 止血 | 出血を止める |
| 手術・IVR | 出血源を制御する |
| 気道・呼吸管理 | 酸素を届ける |
| 低体温・凝固障害の補正 | 止血できる体に戻す |
つまり、出血性ショックで心停止した患者さんを救うには、
血を入れて、血を止める
ことが必要です。
心臓マッサージと人工呼吸だけでどうにかなる世界ではありません。
この意味で、もしヒソカが爆発による大出血で心停止していたのであれば、バンジーガムで心臓と肺を動かしても蘇生はかなり難しかったと思います。
窒息による心停止なら、話は少し変わる
一方で、窒息による心停止の場合は少し話が変わります。
窒息では、最初の問題は出血ではありません。
問題は、
酸素が体に入ってこないこと
です。
呼吸ができない状態が続くと、血液中の酸素が低下します。
その結果、脳や心臓に酸素が届かなくなり、最終的に心停止に至ります。
この場合、出血で血液量が失われているわけではないため、理屈の上では、
- 気道を確保する
- 換気する
- 酸素を入れる
- 心臓マッサージをする
ことで、再び循環が戻る可能性があります。
実際の外傷診療でも、外傷性心停止の中で比較的蘇生の可能性があるのは、出血よりも呼吸の問題が中心の場合です。
たとえば、
| 原因 | 蘇生の可能性 |
|---|---|
| 大量出血による心停止 | 極めて厳しい |
| 大血管損傷による心停止 | 極めて厳しい |
| 窒息による心停止 | 条件がそろえば可能性あり |
| 緊張性気胸による心停止 | 早期解除できれば可能性あり |
| 気道閉塞による心停止 | 早期解除できれば可能性あり |
この意味では、シャルナークの見立ては意外と医学的に筋が通っています。
ヒソカが「爆発で体を破壊されて死んだ」のではなく、
「酸素が足りなくなって心停止した」
のであれば、心臓と肺を外から動かすことで蘇生するという発想自体は、完全に的外れではありません。
むしろ、このシーンのすごいところは、少年漫画的な能力バトルの中に、
心停止の原因によって蘇生可能性が変わる
というかなり本質的な視点が入っていることです。
バンジーガムによる自己心肺蘇生は成立するのか?
では、ヒソカが行ったように、心臓と肺を念で動かして自己蘇生することは現実にありえるのでしょうか。
もちろん、念能力は現実には存在しません。
ただ、あえて医学的に置き換えるなら、ヒソカがやったことは、
- 心臓を外から圧迫する
- 肺を動かして換気する
- 止まった循環と呼吸を再開させる
ということです。
これはかなり大きく言えば、
心肺蘇生そのもの
です。
心臓マッサージは、止まった心臓の代わりに胸を押して血液を全身に送る行為です。
人工呼吸や人工換気は、止まった呼吸の代わりに肺へ空気を送り込む行為です。
ヒソカはそれを、自分の体内に残した念で行ったと考えることができます。
この点だけを見ると、設定としてはかなり面白いです。
問題は、これが「有効な心肺蘇生」として成立するには、かなり厳しい条件が必要なことです。
最大の問題は、脳が酸素不足に耐えられないこと
このシーンで最も現実離れしているのは、心臓や肺を動かしたことではありません。
一番の問題は、
脳が酸素不足に耐えられないこと
です。
心停止になると、脳への血流が止まります。
脳は酸素不足に非常に弱い臓器です。
心臓が止まり、脳に酸素が届かない状態が続くと、数分単位で不可逆的なダメージが入ります。
つまり、たとえ心臓が再び動いたとしても、時間が経ちすぎていれば脳は元に戻りません。
現実の蘇生で本当に大切なのは、
心臓が動くかどうかだけではありません。
脳が助かるかどうかです。
ここが非常に重要です。
ヒソカは救出までに時間が経ちすぎている
作中の描写を見る限り、ヒソカは倒れてすぐに誰かが心肺蘇生を始めたわけではありません。
戦いが終わり、周囲の状況が確認され、遺体として扱われ、その後に蘇生しています。
つまり、心停止から蘇生までにそれなりの時間が経過している可能性が高いです。
この時点で、現実的にはかなり厳しいです。
もし心停止から数分以内に有効な心肺蘇生が開始され、早期に酸素化と循環が再開されたのであれば、蘇生の可能性はあります。
しかし、ヒソカのように一定時間放置されたあと、自力で心臓と肺を動かして蘇生するとなると、たとえ心拍が戻ったとしても、脳へのダメージは避けられません。
現実なら、
- 昏睡状態
- 重度の低酸素脳症
- 高次脳機能障害
- 運動障害
- 意識障害
- 最悪の場合、脳死に近い状態
になってもおかしくありません。
少なくとも、蘇生直後に普通に会話し、状況を理解し、戦闘能力まで維持するというのは、医学的にはほぼ不可能です。
「心臓が動いた」と「元通りに戻った」はまったく違う
蘇生の話で誤解されやすいのは、
心臓が再び動けば助かった
と思ってしまうことです。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
心停止後の治療では、心拍が再開したあとも非常に厳しい管理が続きます。
心臓が動き出しても、脳がどれだけ保たれているか、肺が機能するか、循環が安定するか、腎臓や肝臓が耐えられるかなど、多くの問題があります。
つまり、医学的には、
| 状態 | 意味 |
|---|---|
| 心拍再開 | 心臓が再び動いた |
| 蘇生成功 | 循環が維持できる |
| 神経学的に回復 | 脳機能が保たれている |
| 社会復帰 | 後遺症が少なく生活できる |
これらはすべて別物です。
ヒソカの場合、描写としては単に心拍が戻っただけではなく、ほぼ完全に意識も能力も戻っています。
ここが現実の医学から見ると、最も無理がある点です。
それでも、このシーンはかなり医学的に面白い
では、このシーンは医学的に完全に荒唐無稽かというと、そうとも言い切れません。
むしろ、かなり面白いポイントがあります。
それは、
死因を「爆発外傷」ではなく「窒息」と整理していること
です。
もしヒソカが大量出血で死んでいたなら、心臓と肺を動かすだけではほぼ意味がありません。
しかし、窒息による心停止であれば、酸素化と循環を再開することで蘇生する可能性はゼロではありません。
この違いは、外傷診療ではかなり重要です。
外傷性心停止と一言でいっても、原因によって対応は変わります。
出血なら止血と輸血。
気胸なら胸腔ドレナージ。
気道閉塞なら気道確保。
窒息なら換気と酸素化。
「心臓が止まったから心臓マッサージ」だけではなく、
なぜ心臓が止まったのか
を考えないといけません。
この意味で、ヒソカの蘇生シーンは、かなり外傷診療的な視点で見ることができます。
結論:蘇生の可能性はゼロではないが、後遺症なしは無理がある
ヒソカの蘇生シーンを医学的に考えると、結論はこうです。
窒息による心停止であれば、蘇生の可能性はゼロではありません。
特に、出血による心停止と違い、体内の血液量が保たれているのであれば、心臓マッサージと呼吸のサポートによって循環が戻る可能性はあります。
その意味で、シャルナークが「爆発による外傷死ではなく、酸欠による窒息死」と考えたことは、かなり医学的に筋が通っています。
一方で、最大の問題は脳です。
心停止によって脳への酸素供給が途絶えると、数分で不可逆的な障害が起こります。
作中の描写では、ヒソカが救出されるまでにそれなりの時間が経過しているように見えます。
そのため、現実であれば、たとえ心拍が再開しても、後遺症なく回復する可能性はほぼありません。
つまり、医学的には、
窒息による心停止として蘇生する可能性はゼロではない。
ただし、ヒソカのように完全復活するのは無理がある。
現実なら、重い低酸素脳症は避けられない。
というのが結論です。
ただ、ここで「死後強まる念」が登場するのが『HUNTER×HUNTER』の面白いところです。
普通なら超えられない医学的な限界を、念能力という作品独自のルールで突破している。
その意味でこのシーンは、単なるご都合主義というよりも、
現実の蘇生医学にかなり近いところまで寄せたうえで、最後だけ念能力で飛び越えた場面
ともいえるのではないでしょうか。
ヒソカの蘇生は、医学的にはかなり厳しい。
しかし、死因を窒息と考えた点だけは、外傷外科医から見てもかなり鋭い。
そんなシーンだと思います。


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