【外傷総論】命をつなぐ輸血の仕組み:赤血球・FFP・血小板(緊急時のO型とは?)


はじめに

出血時の治療の一つとして輸血というのは一般の方にも知れ渡っている有名な治療ではないでしょうか?献血をして下さる方々の血液がどうなるかも含め、今回は輸血の実際について解説します。

※ブログのメインテーマとは異なるので読み飛ばしてもOK。

輸血は**「3つの部品(製剤)」**に分けて考える

献血された血液は、それぞれの役割に応じて3つの主要な成分に分けられます。1回の献血から、これらを分けて複数の人に届けます(=「1人の献血で最大3人を助けられる」の由来)。

  1. 赤血球(RBC)酸素を運ぶ主役。貧血や大量出血で使う。
  2. 新鮮凍結血漿(FFP)凝固因子(血を固めるタンパク)が入っている。出血が止まりにくいときに使う。
  3. 血小板(Plt):血の**“のり”**。数が少ない/働きが悪いと止血しにくい。

輸血の際の血液型合わせ(超ざっくり)

病院ではまずタイプ&スクリーン(ABO/Rhの確認+不規則抗体の有無)を行い、交差適合試験で「その人に安全か」を最終確認します。この検査には時間がかかるため、非常時にはこれらの検査を省略して**“緊急放出”**で輸血することがあります。

外傷の“やばい時”はどうする?

赤血球

患者さんの血液型が不明な場合や、検査結果を待てない場合に使用します。

  • 成人男性や妊娠可能性が低い患者には O型Rh陽性(O+)を優先(在庫が多く供給が安定)。
  • 妊娠の可能性がある人(特に若年女性)には O型Rh陰性(O−)を優先(Rh感作回避が重要)。

患者の型が判明したら、速やかに型適合血へ切替(例:A型の人にはA型)。

FFP(プラズマ)

  • AB型FFPは多くの患者に投与しやすい(**“ユニバーサル”**に近い扱い)。
  • FFPは凍結保管のため、解凍に概ね15–30分かかる点に注意が必要。

血小板

  • 初期対応の最優先ではない(多くはRBCから)。外傷の極めて緊急の場面で検査なしに即投与することは稀。
  • 保存は常温・振とうで5–7日が一般的で、資源的にも最も貴重です。

まとめ: まずは命を守る(O型RBCで橋渡し)→ 安全が確認でき次第、型適合へ切替。

どのくらいのバランスで入れる?

大量出血時は、赤血球:FFP:血小板 ≒ 1:1:1などの**“バランス輸血”を目安にスタート**し、検査や出血状況に合わせて調整します(施設のMTP:Massive Transfusion Protocolに従う)。この比率は失血死を減らす効果が示されています。

保存期間と“弱点”

  • 赤血球: 冷蔵で最大42日。長期保存でカリウム上昇や機能低下が進む。
  • FFP: 凍結で約1年(解凍後は保存期間が短い)。
  • 血小板: 常温・振とうで5–7日。3つの中で最も短く、貴重。

よくある質問(かんたんに)

Q:O型なら誰にでも安全?

A: 完全に**“安全”ではありません**。事前検査で拾えない不規則抗体などの問題があり得ます。緊急時の橋渡しとして使い、型判明し次第すぐ適合血へ切替えるのが鉄則です。

Q:輸血は副作用ある?

A: あります。発熱・アレルギーから、稀に重い合併症まで。必要性とベネフィットが上回るときに実施します。


一言まとめ

赤血球=酸素運搬/FFP=凝固因子/血小板=止血の“のり”。

緊急時は O型RBCでつなぎ、すぐ型適合へ切替。

献血は常に必要。あなたの1回が、複数の命を助けます。

外傷外科医からのメッセージ

輸血は外傷診療とは切っても切れない重要なもの。院内の輸血体制整備が極めて重要です。すべての病院で迅速に輸血できるとは限らず、在庫が少ない場合もありますが、基本的に輸血が必須の重症外傷患者さんは輸血体制が整っている病院で診療されるべきだと思います(ケースバイケースですが)。また、輸血自体は直接の止血ではないため、他の止血手段(圧迫・手術・IVRなど)を同時に検討する必要があります。


参考文献

  1. Holcomb JB, et al. Transfusion of plasma, platelets, and red blood cells in a 1:1:1 vs 1:1:2 ratio… (PROPPR). N Engl J Med. 2015;372:128–139.
  2. AABB Association Bulletin #19-02. Recommendations on the Use of Group O Red Blood Cells. 2019.
  3. Khawar H, et al. Fresh Frozen Plasma (FFP). StatPearls (NCBI Bookshelf); updated 2022.
  4. NHSBT. Fresh Frozen Plasma – Factsheet. 2021.
  5. ACS TQIP. Massive Transfusion in Trauma Guidelines. American College of Surgeons; 2018.
  6. Canadian Blood Services. Pre-transfusion testing. 2020.
  7. UAMS Clinical Laboratory. Turn-Around Time (Blood Bank).
  8. PCH Pathlab. FFP Transfusion – Guideline for Practice. 2019.
  9. Children’s Minnesota. FFP / Thawed Plasma Transfusion. 2025.
  10. AABB. Platelet Components – Regulatory Affairs.
  11. FDA. Alternative Procedures for the Manufacture of Cold-Stored Platelets. 2023.

最終更新日:2025年10月13日

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