外傷死の「四徴(lethal diamond)」——出血時に起きる4つの悪循環

注意:本記事は一般向け解説です。強い出血や不安がある場合は、ためらわずに119へ。

外傷で大きく出血すると、体の中で4つのトラブル(低体温/アシドーシス/凝固障害/低カルシウム血症)が同時に起き、互いに悪化させ合います。外傷外科ではこれを**「死の四徴(lethal diamond)」**と呼び、4つが揃わないように全力で対処します。


1)低体温:冷えると「固まりづらい」

体が冷えると、血を固める酵素や血小板の働きが鈍くなり、出血が止まりにくくなります。寒い環境での受傷、長時間の搬送、大量出血(体熱の喪失)、冷たい輸液・輸血などで起こりやすい変化です。外傷診療では保温が基本。重症患者さんで来院時に衣服を切除することがあるのは、濡れた衣類で体が冷え続けないようにするためでもあります。

2)アシドーシス:酸っぱくなると「働けない」

アシドーシス=血液が“酸性が強いほう”に傾いた状態のこと。
大量出血で酸素が足りなくなると、体は無理やりエネルギーをひねり出し、その副産物として乳酸などの“酸”がたまります。これが血液のバランスを酸性側へ押しやり、体の働きが落ちます。

  • なぜ困る?
    酸性環境では、臓器も“血を固める酵素”も働きが鈍る → 出血が止まりにくい/血圧が保ちにくい など悪循環に。
  • どうやって戻す?
    まず出血を止めるのが最優先。あわせて十分な循環(輸液・輸血)を確保し、呼吸(換気)を整えて酸素を届けることで、少しずつ酸性に傾いたバランスを元に戻します。

3)凝固障害:材料が減って「作れない」

出血が続くと、血を固める“材料”(血小板・凝固因子)が不足し、仕組み自体も乱れます。適切な比率での輸血迅速な止血が鍵になります。

4)低カルシウム血症:止血の「合図(スイッチ)」が伝わりにくい

カルシウムは心臓の収縮・血管の締まり・神経伝達に加え、凝固反応の“合図(スイッチ)”として必須。外傷では到着時から低カルシウムの方も少なくなく、さらに輸血製剤のクエン酸がカルシウムと結びつき、血中カルシウムを下げやすくします。足りないと、心臓や血管の働きが弱くなり、止血の合図も通りにくくなります。


超ざっくり一言で:

冷えると固まらない/酸っぱくなると働けない/材料が減ると作れない/カルシウムが足りないと合図が伝わらない。だから早く止めて、温めて、補う(血液・凝固因子・カルシウム)——これが命を守る基本です。


外傷外科医は何をしているの?

  • 出血を止める: 圧迫・結紮・焼灼・血管内治療(IVR)・必要に応じた切除などを状況に合わせて組み合わせる。
  • 温め続ける: 体温低下を防ぐ(温風・加温ブランケット、加温した輸液・輸血、濡れた衣類の除去など)。
  • 循環を立て直す: 酸塩基バランスを是正し、臓器と凝固の働きを回復させる。
  • 適切に輸血し補う: 赤血球・血小板・凝固因子の補充に加え、カルシウム補充も適切に行う。

四徴は現場の優先順位づけの目安。4つを同時並行で断ち切る発想が大切です。


まとめ

外傷の大量出血では、低体温・アシドーシス・凝固障害・低カルシウム血症という4つの悪循環が一気に進みます。迅速な止血、保温、循環の是正、適切な輸血とカルシウム補充を同時に行う。


医療者向けメモ

元々は死の3徴でしたが、近年、低Caが加わり4徴になりました。3徴であれ、4徴であれ、完全に完成した状況ではいかなる手段でも救命は困難となってしまいます。残念ながら蘇生が遅れてしまった患者さんでは、皮下・筋肉や場合によっては手術創縁からの出血が同時多発的に起きるということも良くあります。通常の予定手術では冷房の効いた手術室で手術を行う事が大半だと思いますが、外傷の手術の際には手術室の温度を28度暖房にするところから勝負は始まっているのです。


参考文献

Ditzel RM Jr, Anderson JL, Eisenhart WJ, Rankin CJ, DeFeo DR, Oak S, Siegler J.
A review of transfusion- and trauma-induced hypocalcemia: Is it time to change the lethal triad to the lethal diamond? J Trauma Acute Care Surg. 2020;88(3):434–439.

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