【外傷総論】外傷外科医が診療で使う“武器”たち
本記事は医療に関する一般情報です。個別の診断・治療の指示ではありません。体調不良時は医療機関を受診し、緊急時は119番へ。
はじめに 外傷診療の現場では、医師はまるで漫画のキャラクターのように、様々な“武器”(=道具・検査)を駆使します。ここでは、外傷の初療(初期治療)で命を救うために不可欠な「七つ道具」を、やさしく、そしてちょっと面白くご紹介します! (手術室の道具は含みません。また、ブログのメインテーマと異なるので、興味がなければ読み飛ばしてOKです!)
※病院によって設備は異なるため、すべてが揃っているわけではありません。
外傷外科医の「七つ道具」
1. 身体診察(フィジカル)の能力
【最も原始的で、最強の武器】
これは、医師自身の五感と経験が織りなす「勘と技」です。外傷では、体が生命の危機(ショック)を代償しようと必死に働きます(頻脈・頻呼吸など)。医師はまず、この**「代償が働いている=命が危ないサイン」**を瞬時に見抜く必要があります。
- バイタルサイン(命の通信簿): 血圧、脈拍、呼吸数、意識レベル
- 観察・触診: 大量の出血、皮膚の異常な色、押したときの痛み、腫れ
- 聴診・打診: 胸の左右差、腸の動きの音(打診は外傷ではレアですが)
- 第六感: 経験に基づく「何かおかしい」という違和感(“危険察知能力”)
2. 聴診器
【医師の象徴、呼吸と心臓の「盗聴器」】
「医師といえば」の代名詞。外傷でも、呼吸音が左右で違う、または聞こえにくい場合、肺を包む膜の間に空気や血が溜まっている気胸や血胸を疑う重要な手がかりになります。ただし、救急現場は騒音が多く、医師の感覚に頼る部分も大きいため、解釈には注意が必要です。
3. 血液検査
【体の中の「緊急報告書」】
- ヘモグロビン(Hb): 貧血の程度をチェック。
- 凝固系: 血液の「止血能力」を評価。
- 血液ガス検査: 酸素化、二酸化炭素、酸塩基平衡を迅速に把握。乳酸値などで重症度を判断します。
一般にも知られる検査ですが、実は急性期の大出血の場合、出血直後はHb値がすぐには下がりません。また、結果が出るまで時間がかかるため、初動の判断の「主役」にはなれないのが実情です。迅速な血液ガス検査が、重症度を測る重要な指標になります。
4. エコー(超音波)
【ベッドサイドの「透視能力」】
体内の液体(血液)や空気をリアルタイムで可視化します。外傷で大量出血しやすい場所(胸腔・腹腔など)を短時間で確認できるため、現代の外傷診療では、もはや聴診器よりも「なくては困る」存在。胸やお腹に血が溜まっていないか、気胸がないかを素早く判断できる、ベッドサイドで使える最強の武器です。
5. レントゲン(X線)
【瞬時の「骨と肺の地図」】
健康診断でおなじみ。外傷では搬送直後に胸部と骨盤をベッドサイドで撮影します。短時間で、命に関わる大量の血胸・気胸や、大量出血の原因となる骨盤骨折を評価できるため、体動が難しい重症患者にも安全に施行可能です。
6. CT(コンピューター断層撮影)
【ポケモンの「破壊光線」:最強の診断ツール】
X線を何層も重ねて、体を断面で立体的に評価する強力な診断ツール。エコーやX線よりもはるかに診断精度が高く、損傷部位や出血源をピンポイントで特定できます。非常に強力な武器ですが、撮影準備や移動を含め時間がかかること、そして被ばくがあることが欠点。一分一秒を争う外傷診療では、「最強だが、使うタイミングを選ぶ」というデメリットが伴います。
まとめ(30秒で理解!)
外傷外科医の「武器」は、その場その場で役割が違います。
- 最も大事な武器は「身体診察」! 命の危機を示す代償サインを見逃さないこと。
- エコー&X線で、**「今すぐ処置が必要か」**を短時間で判断。
- CTは最高の情報源だが、時間がかかることを忘れない。
緊急事態において、これらの武器を正しく、そして素早く使いこなすことが、外傷外科医に課せられた使命なのです。
最終更新日:2025年10月11日