『ONE PIECE』に登場する能力に、「覇気」があります。
武装色の覇気。
見聞色の覇気。
覇王色の覇気。
その中でも、医療現場に一番近いのは「見聞色の覇気」ではないかと思っています。
見聞色の覇気は、相手の気配や感情、危険の兆しを感じ取る力です。
さらに極めると、少し先の未来が見えるような描写もあります。
もちろん、現実世界にそんな能力はありません。
でも病院で働いていると、ときどき思うことがあります。
医療界にも、見聞色の覇気使いはいるのではないか、と。
noteのこちらの記事を書き直した記事になります。
是非noteも見てみてください。
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ベテラン医師の「嫌な感じ」
病院には、明らかに経験値の違う医師がいます。
患者さんを少し見ただけで、ぽつりと言うことがあります。
「この人、ちょっと嫌な感じがするね」
「今は大丈夫そうだけど、夜に悪くなりそう」
「早めに準備しておいた方がいいかもしれない」
その時点では、検査の数字はそこまで悪くないこともあります。
血圧も保たれている。
酸素の値も悪くない。
採血も、決定的に危ないとは言い切れない。
若手医師から見ると、
「本当にそんなに危ないのだろうか」
と思うこともあります。
でも、その後に本当に状態が悪くなることがあります。
急に息が苦しくなる。
血圧が下がる。
意識がぼんやりしてくる。
追加の処置が必要になる。
集中治療が必要になる。
こういう場面を見ると、思います。
ベテラン医師は、患者さんの「今」だけを見ているのではない。
少し先に起こりそうな変化を見ているのだと。
それは漫画的に言えば、まさに医療現場の見聞色の覇気です。
数字だけでは見えないものがある
医療というと、検査の数字や画像で判断しているイメージがあるかもしれません。
もちろん、それはとても大切です。
血圧。
脈拍。
酸素の値。
血液検査。
レントゲンやCT。
こうした情報は、患者さんの状態を知るうえで欠かせません。
ただ、実際の医療現場では、数字だけではわからないこともあります。
顔つきがいつもと違う。
受け答えが少し遅い。
呼吸の仕方が苦しそう。
妙に落ち着かない。
汗のかき方が気になる。
痛がり方が強い。
会話はできるけれど、どこか弱っている。
こういう情報は、血液検査のように数字では出てきません。
カルテにも残りにくいです。
でも、目の前の患者さんを見ていると、確かに存在します。
「なんとなく危なそう」
「このまま帰すのは不安」
「もう少し注意して見た方がいい」
こうした感覚は、医療現場ではかなり大事です。
それは単なる「勘」ではない
こういう話をすると、
「結局、ベテランの勘なんですね」
と思うかもしれません。
たしかに、外から見ると勘のように見えます。
でも私は、それを単なる勘とは少し違うものだと思っています。
ベテラン医師の「嫌な感じ」は、経験からくる危険察知です。
何度も悪くなる患者さんを見てきた。
何度も「もっと早く気づけたかもしれない」と振り返ってきた。
何度も危ない場面に立ち会ってきた。
何度も助かった場面、助けられなかった場面を経験してきた。
そうした積み重ねによって、危険の前触れに気づきやすくなっているのだと思います。
同じ患者さんを見ても、若手医師とベテラン医師では感じ方が違うことがあります。
若手には、
「少し息が荒い人」
に見える。
でもベテランには、
「このままだと本格的に息が苦しくなるかもしれない人」
に見える。
若手には、
「少し元気がない人」
に見える。
でもベテランには、
「体の中で何か大きな異常が進んでいるかもしれない人」
に見える。
同じものを見ているようで、実は見えているものが違う。
これが、医療現場における見聞色の覇気なのだと思います。
怪我の診療では「今は大丈夫そう」が怖いこともある
このブログでは、漫画の怪我を現実の医療に重ねて考えることが多いです。
怪我の診療でも、この「見聞色」はとても大切です。
交通事故や転落、強い打撲などでは、最初は元気そうに見えることがあります。
会話できる。
歩ける。
血圧も悪くない。
痛みも我慢できている。
一見すると、
「意外と大丈夫そう」
に見えることがあります。
でも、怪我の怖いところは、あとから悪くなることがある点です。
体の中で出血が進んでいる。
時間が経ってから呼吸が苦しくなる。
あとから意識がぼんやりしてくる。
最初の検査では目立たなかった異常が、あとで明らかになる。
こういうことがあります。
だから医師は、今の見た目だけではなく、「どうやって怪我をしたか」をかなり重視します。
どのくらいの高さから落ちたのか。
どのくらいのスピードでぶつかったのか。
どこを強く打ったのか。
痛みは強くなっていないか。
呼吸は苦しくなっていないか。
いつもと比べて様子が違わないか。
「今は大丈夫そう」に見えても、
「この怪我の仕方なら、あとから悪くなるかもしれない」
と考えることがあります。
これは、未来を予言しているわけではありません。
怪我の状況と患者さんの様子から、少し先の危険を予測しているのです。
見聞色は、誰でも少しずつ鍛えられる
では、この医療現場の見聞色は、才能なのでしょうか。
私は、ある程度は鍛えられるものだと思っています。
大事なのは、「なんとなく変」をそのまま流さないことです。
「なんか嫌な感じがする」
「いつもと違う気がする」
「この人、少し危なそう」
そう思った時に、そこで終わらせない。
なぜそう感じたのかを考える。
顔色なのか。
呼吸なのか。
話し方なのか。
汗なのか。
痛がり方なのか。
表情なのか。
動きなのか。
怪我の状況と今の様子が合っていないのか。
違和感を言葉にしようとすると、ぼんやりした感覚が少しずつはっきりしてきます。
そしてもう一つ大事なのは、あとで振り返ることです。
実際に悪くなった患者さんを見た時に、
「どこに前触れがあったのか」
を考える。
逆に、早めに気づけた時には、
「何に気づけたから対応できたのか」
を考える。
この繰り返しで、危険のサインは少しずつ見えるようになっていくのだと思います。
本当に強い医師は、崩れる前に動く
患者さんの状態が明らかに悪くなってから動くことは、比較的わかりやすいです。
血圧が下がった。
息が苦しくなった。
意識が悪くなった。
検査ではっきり異常が出た。
ここまで来れば、誰でも危ないとわかります。
でも本当に難しいのは、その少し前です。
まだ会話できる。
まだ数字はそこまで悪くない。
まだ決定的な検査結果はない。
でも、何かがおかしい。
この段階で気づけるかどうか。
ここに臨床の力の差が出るのだと思います。
本当に強い医師は、派手に患者さんを救う人だけではありません。
悪くなる前に気づき、先に準備しておく人です。
早めにもう一度診察する。
早めに検査を追加する。
早めに上級医へ相談する。
早めに集中治療ができる場所へ移す。
早めに手術や処置の準備をする。
結果として何も起きなければ、周囲からは
「そこまでしなくてもよかったのでは」
と思われることもあります。
でも医療では、「何も起きなかった」こと自体が大きな成功である場合があります。
危険を未然に防ぐ医療は、目立ちません。
けれど、とても大切です。
まとめ
『ONE PIECE』の見聞色の覇気は、危険や気配を感じ取る力です。
医療現場にも、それに近いものがあります。
それは未来予知ではありません。
超能力でもありません。
単なる勘でもありません。
多くの患者さんを見てきた経験。
悪くなる前の小さなサイン。
あとから振り返って得た学び。
「なんとなく変」を見逃さない姿勢。
そうしたものが積み重なって、医療現場の見聞色になっていくのだと思います。
自分自身、まだその領域にはなかなか届きません。
あとから振り返って、
「あの時点でもうサインは出ていた」
「もっと早く気づけたかもしれない」
と思うこともあります。
それでも、いつかは近づきたい。
患者さんの今だけでなく、少し先の変化を感じ取る力。
悪くなってから気づくのではなく、悪くなる前に動ける力。
医療界にも、見聞色の覇気使いはいる。
そして自分も、少しずつその力を鍛えていきたいと思っています。
目指せカタクリ!!

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